毛皮を着たヴィーナス

 もう僕にはワンダなしの生活など考えられなくなっていた。
「二人の間を離すのは死だけ。あなたが永遠に僕のものにならないのなら、僕があなたの奴隷になりましょう」
 ここにいたって、僕は本気で毛皮のビーナスに鞭打たれる奴隷になる気になっていた。
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 僕が女に対する感覚に目覚めたのは、親戚筋のゾホール伯爵夫人から受けた折檻が始まりで、 そのとき夫人は毛皮のジャケットを着ていた。 専制君主のような美しい豊満な女性に鞭打たれて女を感じた超感能の痴れものが僕なのだ。

 突然ワンダは僕を足蹴にしたのち、やにわに立ち上がり呼び鈴の紐を引いた。 黒人女が入ってきた。たちまち僕を裸にし柱に縛り付けた。
「遊びはもう終わったのだよ、これからは本気だよ、このウスのろめ。おまえは私の奴隷さ!」 生温かい血潮が顔面を伝わって流れ、声も出ない。
「ひざまずいて、さあ、私の足にキスしなさい」
痴れものの僕はそれに唇をあてた。
 毛皮を着たヴィーナスは、マゾヒズムの語源になったといわれている、ザッヘル・マゾッホ(1836-1895)の代表作です。
よくサドマゾという風にサドとセットで語られることが多いようですが、 マルキ・ド・サド(1740-1814)のように獄中ですごしていたわけではなく、 ドストエフスキーやユーゴーといった大作家が執筆する作品をのせている雑誌の編集長などもやっている人だったようです。
マゾッホの作品は、どこから見ても変態なサドのに比べ、素人目にはフツーの文学という風にも見えます。
参考文献:毛皮を着たヴィーナス(ザッヘル・マゾッホ)、世界の奇書
波斯(ペルシア)
匂いの園

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